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京都地方裁判所 昭和33年(行)7号 判決 1959年10月09日

京都市中京区釜座通夷川上る亀屋町三四三

原告株式会社

西尾商事

右代表者代表取締役

西尾彌一郎

右訴訟代理人弁護士

種谷東洋

京都市中京区室町通三茶西入る

被告中京税務暑長

前川太良右門

右指定代理人

今井文雄

中条日出二

南秀雄

右当事者間の法人税課税処分取消請求事件について当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(原告の主張)

第一請求の趣旨

一  被告が原告に対し、昭和三十二年五月三十一日付通書事を以てなした昭和二十九年七月一日より昭和三十年六月三十日に至る事業年度における原告の所得金額を金九〇〇、四〇〇円、法人税額を金三七八、一六〇円、重加算税額を金一六六、〇〇〇円とする再更正処分中所得金一〇八、六〇〇円、法人税額金四五、六一〇円を超える部分はこれを取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二請求の原因

一  原告会社は、昭和三十年十一月三十日被告に対し、かねて被告の承諾を得ている青色申告の手続により昭和二十九年七月一日より昭和三十年六月三十日に至る事業年度の確定申告書を提出したところ、被告はこれに対し所得金額を金一〇八、六〇〇円、法人税額を金四五、六一〇円と更正し、これを原告会社に通知しながら、その後原告会社には同年度中に右のほかなお京都市中京区堀川通御池下る三坊堀川町五五番地の一宅地および同地上建物(以下本件不動産と称する)売却益金七九一、八〇〇円の所得があるものと認定し、これを前記所得金額に加算し原告会社の所得金額を金九〇〇、四〇〇円、法人税額を金三三二、五五〇円、重加算税額を金一六六、〇〇〇円と再更正し、昭和三十二年五月三十一日付書面を以てこれを原告会社に通知した。

二  しかし本件不動産は原告会社の代表取締役である訴外西尾弥一郎が訴外田中源之助から一時買い受けた個人財産であつて、右西尾は昭和二十九年十二月十日右売買契約を解約してこれを田中に返還し、同人がこれを更に訴外大同石油株式会社に売却したものであり、原告会社は右売買の仲介をしたに過ぎない。すなわち、

(一) 右田中源之助は訴外京都衣料株式会社の専務取締役の職にあつたが、昭和二十八年一月同会社が分産したため田中自身も経済的に窮状に陥りその所有財産であつた本件不動産を売却せざるを得なくなつて同年五月頃に至りかねて懇意であつた西尾を通じて原告会社に右売却の周旋方を依頼したので、原告会社はこれに応じ新聞広告をするなど種々売却周旋に努力したのであるが、早急に買主をみつけることは困難であつた。一方田中は益々窮迫して西尾に対し金七〇〇、〇〇〇円の融通を求めたので、西尾は同年十一月十日右不動産を金七〇〇、〇〇〇円で買い取り手附金として金五〇、〇〇〇円を即時に支払い残代金は昭和二十九年五月四日所有権移転登記手続をすると同時に支払うこととしたが、右売買は田中の窮状を救うため金員融通の手段としたものであつて、西尾も本件不動産を終局的に買い受ける意思はなかつたので原告会社はなお田中のため売却周旋の努力を続けたけれども、それが成功しないままに前記登記移転の期日が到来したので、西尾は同日所有権移転請求権保全の仮登記をした上田中に対し残代金六五〇、〇〇〇円を支払つた。

(二) しかるに、右の仮登記ならびに残代金支払もあくまで西尾が田中に対し金融する手段であつたので、原告会社はその後更に再三にわたり新聞広告をするなど本件不動産の売却周旋に努力した結果、昭和二十九年十二月六日ようやく田中と前記大同石油株式会社との間に右会社は田中から本件不動産を金一、七五五、〇〇〇円で買い受け即時に手附金一〇〇、〇〇〇円を、同月八日残代金中金一、二〇〇、〇〇〇円を、同月三十日、翌三十年一月末日および同年二月末日各金一五〇、〇〇〇円をそれぞれ支払い、田中は昭和二十九年十二月八日までに右不動産を明渡し代金完済と同時に所有権移転登記手続をする旨の契約を成立させることに成功した。そして右訴外会社が約旨に従つて手附金一〇〇、〇〇〇円および代金の内金一、二〇〇、〇〇〇円を支払つたので、西尾は同月十日田中との間の前記売買契約を合意解約し、田中から金七〇〇、円〇〇〇の返還を受けて前記仮登記を抹消し、田中は同月十四日前記訴外会社に対する本件不動産の所有権移転登記手続をした。

(三) 以上のように原告会社は田中および右訴外会社から右売買の仲介手数料として合計金八七、七五〇円の報酬を得たに過ぎない。したがつて原告が右売買によつて売主としての利益を得たことを前提とする被告の前記再更正はその基礎となる事実の認定を誤つた不法の処分といわなければならない。

三  そこで、原告会社は、昭和三十二年七月一日被告に対し再調査の請求をしたが、被告が同日より三ケ月以内にこれに対する決定を行わなかつたため法人税法第三十五条第三項第二号の規定により右請求は訴外大阪国税局長に対する審査の請求とみなされ、同局長は同法第三十一条の三に照らし原告会社の請求は認容できないとの理由によりこれを棄却する旨の決定をなし、昭和三十三年二月二十七日付審査決定通知書を以てこれを原告会社に通知し、原告会社は翌二十八日これを受領した。

四  しかし、被告の前記再更正を維持した右審査決定も不法であつて、被告の再更正処分中所得金額一〇八、六一〇円、法人税額金四五、六一〇円を超える部分は取り消すべきである。

(被告の主張)

第一請求の趣旨に対する答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二請求の原因に対する答弁

一(一)  原告主張の事実中、一および三の各事実は認める。

(二)  同二中本件不動産がもと訴外田中源之助の所有であつたこと、昭和二十九年十二月訴外大同石油株式会社が右不動産の所有者となつたことおよび原告主張のような所有権移転請求権保全の仮登記、同抹消登記ならびに所有権移転登記がそれぞれなされたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同四は争う。

二  被告が再更正処分において当初の更正にかかる所得金額に原告主張の金額を加算した理由はつぎのとおりである。すなわち、

(一) 原告会社は昭和二十九年五月四日訴外田中源之助の申出により同人所有の本件不動産につき権利者を訴外西尾弥一郎としてその主張のような仮登記手続をなし、同年九月六日までに代金として合計金七〇〇、〇〇〇円を右田中に交付した上右不動産の買主を物色した結果、昭和二十九年一二月六日これを訴外大同石油株式会社に対し代金一、七五五、〇〇〇円で売却し、前記仮登記を抹消して右田中より直接右訴外会社に所有権が移転した旨の所有権移転登記手続をしたのである。そもそも原告会社は資本金一〇〇、〇〇〇円の株式会社でありその発行株式会社でありその発行株式の五十五パーセントを右西尾弥一郎とその同族関係者が所有するものであつて法人税法第七条の二にいわゆる同族会社に該当し、しかも実際の経営はすべて西尾弥一郎の専決に委ねられているのであるから原告会社は同人の個人企業となんら異るところはないのであつて、右取引についても前記のように仮登記権利者を西尾弥一郎としてあたかも同人が個人として右取引をなしたかのようにみえるが、右取引は実際においては原告会社がなしたものにほかならない。

(二) 右取引によつて原告会社の得た利益は、原告会社が右田中に対し前記代七〇〇、〇〇〇円のほか立退料として一七五、四五〇円を支払つているので以上支払金合計金八七五、四五〇円を前記訴外会社から受領した代金一、七五五、〇〇〇円から差し引いた金八七九、五五〇円であつたにかかわらず、原告会社はその確定申告書に対する更正の際に、被告に対し右不助産は西尾弥一郎個人が田中から金七〇〇、〇〇〇円で買い受けた個人財産であつて原告会社はその売却のあつせんをしたに過ぎないから右取引により生じた原告会社の利益金額はその売買手数料金八七、七五〇円であると主張していたので、被告はこの主張にそつて右更正をしたのである。しかしながら右のように原告会社の前記取引により得た利益は原告会社が右に主張した金額に止まるものではないのであるから被告は前記利益金八七九、五五〇円から更正の際所得額に計上した金八七、七五〇円を差し引いた金七九一、八〇〇円を当初の更正にかかる所得金額に加算して本件再更正をしたのである。

以上のように原告会社が前記取引を西尾弥一郎個人のなしたものであるかのように装つたのは原告会社があたかも右取引の仲介あつせんのみをしたかのようにその手数料額のみを記帳して法人税の負担の軽減を図つたものであつて、被告の本件再更正処分にはなんら違法はない。

(証拠)

原告訴訟代理人は、甲第号証、同第二号証の一、二、同第三ないし第六号証、同第七号証の一、二、三、同第八号証、同第九号証の一、二、三を提出し、証人藤原弘之、同松田茂八、同加藤信一の各証言、原告代表者本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告指定代理人は、乙第一号証の一、二、三、同第二号証の一、二、三、四、五、同第三号証、同第四号証を提出し、証人八神重春、同中村与一の各証言を援用し、甲第七号証の一、二、三、同第九号証の一、二、三、の各成は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

請求原因一および三の事実は当事者間に争いがない。また本件不動産がもと訴外田中源之助の所有に属していたこと、昭和二十九年十二月訴外大同石油株式会社が右不動産の所有者となつたこと、本件不動産について原告主張のような所有権移転請求権保全仮登記、同抹消登記、所有権移転登記がなされていることはいずれも当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一号証の一、同第三、四号証に証人八神重春、同中村与一の各証言を総合すると、西村彌一郎(原告会社の代表者としてか個人としてかは争いがあるのでしばらくおき)は訴外田中源之助から本件不動産を昭和二十九年五月四日に代金七〇〇、〇〇〇円で買い受け同日右不動産について西尾彌一郎を権利者とする所有権移転請求権保全仮登記をなし、手附金五〇、〇〇〇円を支払い、残金を昭和二十九年九月六日支払つたが、右物件を訴外大同石油株式会社に対し代金一、七五五、〇〇〇円で売り渡し、前記仮登記を抹消し昭和二十九年十二月十四日訴外会社に対する所有権移転登記をしたことが認められる。

原告会社は、本件不動産を西尾彌一郎が田中源之助から昭和二十八年十一月十日代金七〇〇、〇〇〇円で買い取つたが、これはあくまで売却のあつせんの手段であつて、原告会社はその後も売却のあつせんに努め、昭和二十九年十二月六日田中源之助と訴外大同石油株式会社との間に代金一、七五五、〇〇〇円で売買契約を成立させ、西尾彌一郎は田中源之助との売買契約を合意解約し、田中源之助から金七〇〇、〇〇〇円の返還を受けて仮登記を抹消し、田中源之助は同月十四日右訴外会社に所有権移転登記をしたと主張する。そして成立に争いのない甲第四、五号証、証人松田茂八、同藤原弘之、同加藤信一、原告代表者の供述中には右主張にそう部分があるが、これらの供述はあいまいな点が多く、成立に争いない乙第一号証の一、同第三、四号証、証人八神重春、同中村与一の証言によると、訴外田中源之助も西尾彌一郎も田中や西尾の審査ないし再調査請求に関し同人等より事情を聴取した税理士の中村与一や税務職員の八神重春に対しかような合意解約の事実を述べたことがなかつたことが認められるのでたやすく信用できない。

そこで訴外田中源之助から本件不動産を買い受けたのは原告会社であるか、西尾彌一郎であるかについて判断する。証人八神重春の証言によると、訴外田中源之助は同人に対し本件不動産を原告会社に売つたと言つていたこと、原告会社は西尾彌一郎が大部分の株式を所有する同族会社で実質上西尾彌一郎の個人企業と異らないこと、西尾彌一郎は八神重春に対し「田中源之助に対する支払の金は原告会社の金庫から出した」と述べ、更に、「本件土地を大同石油株式会社に売つて得た利益について不動産仲介としてはあまり例のないことだがたまにはこういう儲けをさせてもらわんと」と述べたことが認められ、また、証人藤原弘之の証言によると、大同石油株式会社に対する売却代金が原告会社に入金されていることが認められる。

以上の事実を総合して考えると、原告会社が田中源之助から本件不動産を買い受けたものと推認される。もつとも本件不動産については西尾彌一郎を登記権利者とする仮登記がなされているし、成立に争いのない甲第四号証には買主西尾彌一郎の記載があり、証人中村与一の供述中には訴外田中源之助は本件不動産を西尾彌一郎に売つたと述べていたとの部分があるが、これらは前記各証拠に照らし右認定をくつがえすに足らず、原告代表者のこの点に関する供述もたやすく信用することができない。

そして、原告会社が立退料として金一七五、五〇円を支払つたことは成立に争いのない乙第三、四号証、証人藤原弘之の証言により認められるので、原告会社は金一、七五五、〇〇〇円より金七〇〇、〇〇〇円および金一七五、四五〇円を控除した金八七九、五五〇円の利益を得たことになる。よつて被告が金八七九、五五〇円より更正の際所得額に計上した金八七、七五〇円を差し引いた金七九一、八〇〇円を加算してした再更正決定は適法であつてこの取消を求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤孝之 裁判官 宮本勝美 裁判官 中川臣朗は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 加藤孝之)

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